転生

はー。明日で帰るのかぁ。


なんだろ。楽しかった?微妙だった?


帰省ってなんなんだろうなぁ。


親と話をしていても、結構ボロクソに言われたなー。
お前に家をどうこうするなんて無理だって。
ここまでしてやって、さらに兄弟がそれぞれ各地に生活を持って
さらに帰る場所まで用意する(帰省先を守る)なんて冗談じゃねーよwって言われた。


俺の心なんてお見通しなんだろう。
だから、俺が家にいても居心地の良い空気を作らないんだろうなぁ。
ここはお前のいる場所じゃないって、教えてるんだろう。




っていうかなー、そんなのわかってんだよなぁ。
いやほんと、調子狂う。
そんな気回されなくたって、普通に帰りますよ。
普通に帰って、仕事するしさ。


俺に見透かされるようなこと、して欲しくないんだ。
もっともっと高みにいて欲しい。



やっぱり、母親は病気だ。よくわからないことをしていることが多い。
自身の病気と、次男のクズっぷりとでダブルパンチなんだろう。
父親もどこかこう、情緒不安定なんだよなぁ。



俺も大概ヤバイけどさぁ、なんだかんだで安定した仕事してるし
そこまで悩んでるわけでもねーしさー。
京都に帰れないってことに対してはノイローゼ気味なほど苦しんでるけど
別にもうそんなの慣れっこなわけじゃん。
高校やめてからずっとこんなのだしさ。毎日毎日何かのために苦しんで生きるのなんて
もう慣れてるんだよ。



うちの親は、両方とももう10年生きることはないんだろうなぁ。
10年ってなげーよ?
10年前なら俺は小学校出たばっかりくらいだものなぁ。

そんな修羅ルートで生きてきた親父には
子どもの糞っぷりが見ていていらつくんだろうなぁ。


子どもの人生のどこか裏側に、自分が得ることはなかった幸せな世界を
イヤというほど持っているのに、苦しい顔をしている子どもを見ていると、イラつくんだろう。


せっかく幸せに生きられるだけの世界を与えてやったのに
幸せを感じることが出来ない子どもを見ていると、苦しいんだろう。



仕事で苦しい想いを散々してきたから、子どもにこの仕事を継がせたくないんだろう。
っていうよりも、俺にもうこれ以上、実家に関わって欲しくないんだと思う。
これ以上俺が深入りしても嫌な世界しか見ないから、関わって欲しくないんだろう。


さながら火事場から子どもだけでも逃がそうとしているというか。
そんな感じなんだろうなぁ。


でもそれくらい、子どもが信用されてないんだよな。
それくらいに無能で無力だと思われているし。



ってか、人生ってこういうものなのかなぁ。
親の人生は、親に聞けば、そりゃ楽しかったっていうんだろうけどさ。
父親の無力さに苛まされてさ、大学にコンプレックス抱いてさ。
自分が家業を継がされてさ、子どもが大量にいて、気が狂いそうになるほど働いて。
やっとバイクって趣味が出来て、人生楽しいなってなったら
母親がガンで死んでさ。妻もガンにやられてさ。
孫が生まれて可愛いなって思ってたら、もうあと10年も生きれないかもなーって。


そんな風に生きるのが、人生なのかって思ってしまう。
うちの親の人生の幸せを否定するつもりはない。

でも世の中には、もっともっと気楽にたくさんの幸福を得ている人、いるんじゃないのかって思ってしまう。



孫がかわいい、孫と過ごす時間に幸せを感じる。これは当たり前だ。
でもその時間って、そんなに貴重なものなのだろうか。
こんなにつらい時間の背後に感じなきゃいけないものなんだろうかと思ってしまう。

あれだけ辛い時間を超えてきたうちの親なら、そんな時間、当然のように
何十年も与えられて良いんじゃないの?って思うんだけどなぁ。



言い出せばキリはないさ。
金がなくて自殺する老人だっているんだ。
それを見ればうちの親は幸せだ。途方も無いほどに幸せだ。


でも下を見ればキリがない。
でも相応の努力は支払ったはずなんだけどなぁ。

贔屓目に見なくても、うちの親は十分すぎるほど絶望を経験して労力を払ってきたはずなのになぁ。



神様なんて、いないんだろうなぁ。
強欲だなんて言わせない。願って当然の権利が与えられないんだ。

次は、俺たち兄弟が、自分の時間を犠牲にしてでも
親に幸せを与えるべきなんじゃ、無いのかなぁ・・・


もしも親が幸せだって思ってくれるなら、俺は今の職場にずっといてもいいって思う。
でもそんなのは、たぶん違うって思うもの。

京都にいれば、近くにいることが出来れば、守ることが出来るはずだ。
親がどこまで落ちぶれようと、俺が何とかすれば死ぬことはない。

その、出来れば打たない、限りなく低い、まず打つことはないであろう
一手を打てるためにも、俺は京都にいたい。



介護をする覚悟もある。最後を看取る覚悟もある。
でも、今の場所じゃ、ソレができない。
そのために地位も権威も捨てる覚悟はあるもの。



だっておかしいだろ。こんなに苦労して生きてきた親が、ガンで早死なんて。
残ったほうが、誰も頼れずに老人ホームで死ぬなんて、ありえない。

そんな世界を、絶対に許せない。
そんな惨めな世界、絶対にありえないし、あってはならない。
うちの親がソレを望んでいても、そんなことは許さない。

そんな最期を見るのは俺だって嫌だ。



でも、このままいけばありえる。
それがたぶん、俺が挫折の中で経験して知ったことなんだと思う。

ありえないと思える悲劇なんて、当たり前のように訪れる。
自分ならなんとかなるなんて、ありえない。


案外テレビドラマの中や、どこかで噂で耳にする、どこかの誰かに起こる悲劇は
当たり前のように降りかかってくる。

でも最期には、なんとかしなきゃならないんだからさ
諦めるくらいなら、戦いたいだろう・・・

ここまで見透かされているから、親は俺を遠ざけるんだろうな・・・
俺にはまだ家庭もないものなぁ。
守るものがないんだから、守りたいものがあるなら、守ってみるよ。