選別

今日は、一つ大きなお別れをした。


お別れなんていうと、綺麗に言い過ぎかもしれない。

ずっと世話をしてきた亀と、お別れをしてきた。


物心ついた頃から、僕はペットに亀を飼っていた。


社会人になって、遠方で何度も引っ越すたびに、大変だったが連れて廻っていた。



今のマンションでも、ペット飼育禁止の中でコソコソ飼っていた。


子どもができて、今の環境で世話をしていくことに不安を覚えた。

何を言うものでもない。言い訳もクソもない。

僕は、責任を持って最期まで飼育するということが出来なかった。


20年近く育ててきて、これ以上育てていけないということで、静岡県にあるとある動物園に引き取りをお願いしてきた。



引き取りなんて、あっさりしたものだった。

客が入場券を買う横で、僕はこの生き物の所有権を放棄する旨の書類にサインし、ずっと育ててきた亀をあっさり手放したのだ。
書類に記入している間、客たちが僕を、侮蔑の視線を送っているように感じた。
きっとそんな視線はどこにもなくて、僕の心の中にある後ろめたい気持ちが、自分自身を見つめていたのだと思う。
引取を行う職員の、あまりにも事務的なやり取りに、冷や汗をかく。


子どもが出来た、衛生的に問題がある、そんな理由を並べ立てて、僕は飼育を放棄したのだ。


悔しくて、久しぶりに車内で泣いてしまった。


最期まで責任を持って飼ってやれなくて、申し訳ない。
園内では、こうした行き場のない亀たちが過ごす池があった。

所狭しとひしめいている亀たちがいて、うちのカメはこの中で生きていけるのかと不安になる。







今日別れた2匹の亀は
1匹はペットショップで買ったクサガメ
もう1匹はゲームセンターで取ったミドリガメだ。



クサガメとの出会いは20年ほど前になる。
たまたまいったペットショップで、小さいケージの中で中くらいの亀が3匹泳いでいた。
亀を飼おうと思ったものの、1匹を選ぶことが出来ず、3匹とも飼うと親にいい、買いに行ったら2匹が売れ、1匹売れ残っていた。
その売れ残った1匹を飼ってきた。


ミドリガメは、たまたま行ったゲームセンターで、亀キャッチャーなるゲームがあった。
ゲーム機の中にミドリガメ達が浮かんでいて、それを取るゲームだ。

当時の僕には、それがあまりにも不憫でかわいそうに見えて、全部助けてやろうとか思いながら
4千円ほど使ったと思う。たまたま取れた1匹が、そのミドリガメだ。



それから、僕はずっとこの亀たちと暮らしてきた。

亀は臭い。そして手がかかる。水を変えないといけない。

マンションじゃ変える場所もなく、トイレに水を流して、お風呂で水を入れていた。夏場は本当に臭い。




でも、ずっと一緒に生きてきた。
僕が転勤になるたびに一緒に引っ越していた。



それでも、手放そうと思ったのは何故なんだろうか。


子どものことを考えて、ということは事実だ。

もし万が一、サルモネラ菌とかが映ったら。

また本当に臭いため、奥さんのストレスにもなるだろう。

だが、致命的に飼うことが出来ない理由というものが、見当たらないのだ。




今回、飼うことを諦めたことには、僕の責任感のなさ以外、なにもない。


勝手をいうと、もし神様がいるのなら。
どうか、今日僕の手元から離れた亀たちが、余生を全うできるようにしてあげて欲しい。


人間の身勝手な都合で振り回される生き物に、何一つ罪はない。


どんな生き物にも、生きる場所が与えられるべきだ。
本当に、心から自分の弱さを反省するしかない。


生き物というのは軽々しく飼うべきではない。

深く、本当に深く反省する。