孤独Ⅰ

大学入学1日目。僕は浮かれていた。
念願の大学に入れたのだ。
思えばここまで本当に長かった。
この3年間、俺がまともに会話したヤツは、家族とごく一部の友達とホームレスくらいだ。

だが今の俺は、大学生という身分を手にすることができたのだ。
父さん母さん、今まで苦労をかけてごめん。もう二度と学校を辞めるだなんて言わない。


大教室に入り、大量の書類の入った紙袋を受け取りガイダンスを受ける。

だがどうやらこのガイダンス、ただ冊子を読み上げてるだけで時間の無駄だなーとか思って
1時間だけ受けて、あとはサボって校内をさまよってた。
流石に入学初日にこれを出来るヤツはそうそういない。
自分のアウトローな一面に酔いしれつつ、1回生だけが持つ紙袋片手に校内をさまよう。

俺がなぜこんなことをしているかわかるだろうか?
ガイダンスがダリーってのもあるんだけど、何よりも僕の目当ては、サークルの勧誘。

そこまで入るつもりはないが、まあ大学といえばサークルなので、見てみるのも良い。
俺でもやっていけそうなサークルがあれば検討しようと。

サークルの勧誘員がうようよしている中、ぽつりと紙袋を片手にガイダンスをサボる俺なんて
もはや格好の餌食だろうとか思ってたんだが、何故か全然勧誘してもらえない。
歩いているだけで、サークルの勧誘選考から漏れているような気分にさらされ、結構テンションが落ちていた。
(ちなみに当時は宅八郎風ヘアスタイルだった)

結局よくわからないサークル2つから勧誘を受けたが
少林寺拳法のサークルと、空中滑空サークルとかキワモノツートップだったので、そこは鮮やかにスルーを決め込む。
これ以上外にいても気分を害すると思って、ガイダンスに戻ることにした。

ガイダンス会場でヲチしている限り、俺の隣の男、さっきから友達が欲しそうな目で周囲をみている。
ここはしょうがないな、と。俺が話しかけてやろうじゃん、とか思った。

一旦休憩に入り込んだので、とりあえず飲み物でも買ってからそいつに話しかけようとか思ったのだが
買って帰ると何故かそいつの周りに人の群れが出来てて、すでに友達ができてた様子だったから
ちょっとげんなりしてしまって緊急回避。一人でタバコを吸いながら作戦を練ることにした。
っていうか俺の席に全然知らないやつが座ってしまって、そいつと話しちゃってるしみたいな。



初日はこんな感じで終わった。

まあ初日だしこんなもんだろって思って。
あきらめずに俺も大学生活を満喫しようって思って。

その日の夜は、1日目があんまりうまくいかなかったというショックもあったが
何よりもこれから始まる俺だけの大学生活という名のオレンジデイズに思いを馳せていた。
夏は、バーベキューしかねぇなと。
海とか行っちゃうかー!とか思って、海パンのサイトとか見てニヨニヨしてた。




二日目。
昨日もらった紙袋はでか過ぎて原付に入りそうにない。
まあもういらねーだろと思って家に放置。

二日目のガイダンスに出席すると、どうやら俺が家においてきた資料はまだバリバリ使う空気らしくって
俺だけ資料を持ってない人的な感じで「え、みんな昨日の冊子持ってきてんの?」って周囲をキョロ充してた。
この時の俺が隣の人に見せてもらおう、なんて発想を持たなかったことは言うまでもない。




二日目には大事なイベントがある。
それはクラス顔合わせだ。1回生からゼミに近いことをやる。そこで友達を作るのだ。


まあそういうのも思ってはいたんだけど。
同時に、実はクラスにはいかないでおこうかなーとも思っていた。
心の奥で、俺みたいなヤツがいても迷惑かなーとか。友達出来る自信ないなーとか。
実は思っちゃっていた。

でもやっぱ、変わらんといかんやろと。
人間前向きにならんと駄目じゃん?とか思って勇気を出して行くことにしたんよ。


それに友達もここで作らないと駄目だ。

クラスにはどんな子がいるだろうか?
ちゃんと友達出来るだろうか。浪人して1年遅れているが、そういうのはイけるのだろうか?
もしかしたら彼女とかも出来るかもしれない。
俺はもう今までの俺とは違う。投じよう。慣れ合いの世界に全力で身を委ねようじゃん。
普段はおちゃらけてるけどシリアスなモードもいけるお兄系キャラ気取って、海パンはいてバーベキューやろうじゃんとか思ってた。




教室に入り、中心を囲むようにセッティングされた30個くらいのパイプ椅子。
当然このシチュエーション、俺は一瞬で予見する。"フルバ"が来るぞ、と。新学期恒例、フルーツバスケットがきてしまうぞ、と。
この時から俺は、いざ自分が椅子に座れなかったとき、何を言ってやろうか?
3回ミスった時、何のモノマネをやろうか?とか考えていた。
ありとあらゆる可能性を視野に入れ行動する。これがTARO Tactics


俺のすぐとなりに座った男がいたから、話しかけてみた。
「緊張するねーw」
「そう?」

で会話が終わってしまった。
俺が話しかけてやったのに、何だその気の抜けた返しはと。
こいつは駄目だから他と話そうと思った。
でももう片方のとなりは女の子だったので、ちょっと話しかけづらかったので
とりあえず場が展開していくまではおとなしくしてようって。



そんでまあ、何かTA的な人がいろいろ取り仕切って。
「じゃあ適当に部屋を歩きまわって、出会った人とお互い自己紹介してみよー!」とか、マジ今考えると自殺モン。
この自殺モンイベ、なんと僕は超えられたんですよ。
男二人とやりとり出来たんすよwwww

いやもう浮かれちゃってさw 向こうから来たんよ!

「おいおい、俺、案外やれちゃってんだけど?」みたいな。
なんだよ、友達できてんじゃん!と。

その後の、「5人くらいにわかれて血液型の特徴を書き出しましょー!」みたいなちょっと意味分かんないゲーム
(まさにこの通りのゲームで、今も意味がわからない)
の時にも、女の人にしゃべりかけたりとかしてテンションあがっててさ。



「ここは俺のお得意、あるある自虐ネタやるかっ!?」とかチョーテンション上がってたんですよ。
だがここで俺は調子に乗りはしない。
「B型をソフトにディス」→「タロー君何型?」→「いやまあ俺もB型なんやけどーw」→「ちょーマジかんべ〜んwww」的に
ここは俺が身を呈して、置きに行こうと。


だから、「B型って結構周り見てない人多いよねー」みたいなことを勇気を出して言ってみたんだけど
何か別にそれだけの空気で終わってしまって、俺がB型に偏見を持つ知能の足りないヤツみたいな空気になってマジ勘弁だった。


でもここまでうまくいっててさ。
あー、なんだかんだで、やっていけそうだなーって。

特に話しかけてくれた男2人と女1人とは、結構良い感じだ。
俺の脳内バーベキューのメンツにすでに彼らが加わっていた。
ここから僕が一気に地獄に堕ちることなんて想像もしていなかった。





突如、TAっぽい人が言い出したんですよね。
「実はこの中に、1回生のふりをした2回生が4人いまーす!」って。
どうやら聞くに、それは1回生の集まりを、彼ら2回がうまく引っ掻き回すことによって
仲を取り持とうという目的を持った集団らしい。
ようするに浮いてるヤツとかがいたら、彼らに話しかけて、っていうヤツ。


まあもうオチは読めましたよね。


僕に話しかけてきた3人は全員その2回生だったんですよ。
マジで気が狂いそうだった。
これは悪い夢か何かなのか?と。
俺は念願の友達が出来たんじゃなかったのか?って。
むしろ4人中3人?4人中3人が俺のところに来てたの?っていう。
何でお前ら、俺一人にジェットストリームアタックかけてんの?って。


僕が友達が出来たって思い込んでいたのは、ようするに浮いてる僕をフォローしようと動き回っていたんですよね。
4人中3人。75%の動員をもってして。


そう、思い返すと。思い返すとだよ?
確かに最初の、ペアを探して自己紹介とかでも、俺は何かキョロ充してたんよ。
「ああ、やばい・・・いない・・・!!いないぞ・・・!!ペアがいないぞ・・・!!」って。
そしたら話しかけてきてくれてさ。


それをこう、曲解してただけなんですよね。
僕も嬉しくってさ。話しかけてきてくれるっていうのが凄く。
もうその気持とかも全部打ち明けちゃってたのよ。
「いやーw俺友達出来るかすんげー不安だったけど良かったわぁーーー!!」とかいって、握手とかしちゃってたわけ。
もうそんなの全部ガラッガラに崩れちゃってさ。




え、俺の盛り上がりはなんだったの?みたいな。



わかる、わかるよ?確かに君たちはこう思うだろう。
「その2回生と仲良くしたらいいんじゃないの?」って。ええ、そうですよ。そうです。それが正しい。正しいです。
でもさ、わかる?何か違うってわかるっ!?
明らかに俺が浮いてしまっていたという現実と、それをフォローしようとしてきていた人達だったわけ。
いわば患者と医者。不登校児と保健室の先生と構図が同じなんですよ。

でも想像出来た?あの椅子の陣形からフルーツバスケットまでは行き着いても
この発想は無かったわ、ってなりません?

むしろ話しかけてきてくれた子が何人かいたっていうことそのもので満足しちゃっててさ。



その後もちろんやったよ。フルーツバスケット
僕は一生同じ椅子に座ってうなだれてた。
フルーツバスケット!」って言われた時だけ隣の椅子に動いてた。

まあここでやっとこのクラス顔合わせは終わって。
悪い夢でも見たことにしよう、と教室を出ようとしたら
「みんなで昼ごはんを生協で買って、ここで食べましょう!」みたいな空気になってしまって。

もはや完全に心をへし折られた。行きたくないが、とりあえず生協までクラスの輪に入れずに
とぼとぼ一人で歩いてた。そしたら話しかけてきた子がいてさ。振り向いたらさっきの2回生だった。
同情はよしてくれよと。
あんたたちが良い人なのはわかる。むしろ同回生なら喜んで友達になる。
良い人なのはもう十分にわかる。十分にわかるから、わかっているから・・・
あんたたちの存在が、俺にぼっちというラベリングを付与することにしかならないんだと。


生協でも何か俺が、こんぶと梅どっちにしようとか悩んでたら、すでに何かみんな会計終えて移動始めてるっぽかったから
そのままフェードアウトした。

もうクラスの分の単位はイイや・・・って。
「もう・・・クラス行くのやめよう・・・・」


これは僕が大学でぼっちになっていくまでの記録の最初の1ページ。
ここからも僕の大学のぼっちっぷりは加速していく。


いや、わかってるよ?プライドが高いとかワガママとか。もうわかってるからやめよ?人生録に反省など無用なのだ。