契機

高校を辞めて

最初の年、1年間ふらふらして
その次の年、本来なら高校3年生になる年、僕は予備校に通って。
受験に落ちて。1年浪人して。
それで大学に入って。




1年間ふらふらしてたのって、よくよく考えるともう6年ほど前の話?

そう思うと、時間がたつのは恐ろしいほどはやいというか。
あのころに何があったのかって、あんまり思い出せないんですよね。
思い出せないっていうか、そもそもほとんど何も無かったから、思い出すことが無いってのが正しいんだけど。


でもあの頃に思っていたことは嫌というほど頭にこびりついているので
それを取っ掛かりにして、いろいろ記憶の中からズビズビ引っ張ると、いろいろなことを思い出すんですよね。

1年間ふらふらしていた時間というのは
本当にふらふらしていた。「ふらふらしていた」よりも良い言葉が思い当たらないほどに、僕は毎日ふらふらしていた。


みんなが高校2年にあがる中、僕は2年になれなかった。
その中で親ともかなりいろいろと揉めてはいたのだけれど
何よりも僕が完全に高校生をやるつもりが無くなっていたので、本当にふらふらしてました。
まあその辺の葛藤はまた置いておいて。




僕が公園好きであるということは、よくついったーでも書いている。
あの頃のふらふらしている僕には時間をつぶす場所が公園しかなかったんですよね。

あの時僕は家でだらだら寝てる、なんてことは親が許さないから出来なかったので
とりあえずポーズとして朝9時から昼4時くらいまで、外で時間を潰すんですが
当然ながらお金なんてそんなに持ってるわけでもなく。

一人でゲームセンターに行くタイプでもないし、友達はみんな学校、となると
僕は当ても無くふらふら自転車で彷徨うくらいしかやることがねーんですよね。
その結果行き着いたのが、河原だとか、公園だとかで延々寝るっていう。人気の無いところを僕のお気に入りスポットにしてました。


また悲しきかな、僕は高校に行ってないとかそういうの抜きで、一人でボーっと過ごすのが苦じゃないんですよね。
何時間でも外でぼけっとしてられるので、ある意味これは僕がぎりぎりのラインで心の健康を保つのに必要な行動だったのです。


そんな風に昼の公園の住人として生きるうえで避けては通れぬものが二つある。

ひとつは警察の職務質問なんですよね。
さすがに見た目はちゃんと17〜18才していたけど、別にそこまで悪いヤツって感じの見た目でもないので
いくら口で学校行ってないって言っても信じてもらえないんですよね。
どちらかというと、学校をこっそりサボっている高校生というか。そんな印象を警察の人に抱かせていた気がする。

会うたびに問答があって、僕としてはあんまり家に連絡とかされたくないので
「いや辞めたんですよ、いやほんとほんとw まじまじw」みたいな感じでやってはいたんだけど
内心、「なんでこんなことになってるんだ・・・」と思ってました。
僕はあの頃、学校に行かない自分を正当化することに必死で
全力でアウトローを気取っていたので、火をつけると煙が出る20本入りの筒状の何かを際どい顔をしてくわえたりとか
サングラスをかけたりとかして、ホントにしょうもないことなんだけど、全力でアウトローを気取ってたんですね。

でもそれがまた、警察の人がやってくるたびに急に恥ずかしくなって
話しながらもこう、「ちゃうねん、そういうのちゃうねん」と心の奥で言い訳をしてた。
君たちは仕事の一環で僕に話しかけているんだろうけど、俺からすればアウトローを気取る末っ子の片鱗が親バレする可能性があるんやぞと。


そういうのがあるたびに行く公園を変えたりしてた。




そしてもうひとつ避けては通れないのが、公園の住人との会話なんですよね。
簡単に言うと、ホームレスという人たちです。


というか、家はあるのだろうか。定職についてない感じのおじさん。
僕が公園でぼけーっとしていると、大体三日に一度はホームレスのおじさんが近くにやってきて話しかけてくるんですよね。

知らない人と話すの苦手だなーとか思いつつも、なんだかんだで人と会話できるということで
結構僕はホームレスの人と話すのが好きだった。



何人としゃべったのかは思い出せないんだけど
強烈に印象に残っている二人が、元東大卒の人と、霊が見えるおっさん。


東大のおっさんは、僕が公園で野良猫と遊んでたらはなしかけてきた人で。
僕が高校を辞めたり、今どこの大学を目指してるとか身の上話をしてたら
突如「おっちゃんなぁ・・・実は東大やねん・・・」と、言ってきた。

おっちゃん曰く、「なんとなく受けたら受かった」らしい。
その武勇伝たるや完成度の高いのか低いのか良くわからないもので
東大のマンホールを裏返して、それを鉄板に焼肉をしたことがあるとか、いきなり嘘をつくにしては偉く際どい話だった。


無論のことこのおっさんが東大生なのかというと、たぶんそれは嘘で。
ただそれに関して深く突っ込んだりとかするのは、たぶん野暮というヤツなのだろうと思った。





元東大卒の人は、公園の端っこにブルーシートで家を作って生活している人だった。
僕もブルーシートの家は結構目に付いていたので、一体あの中はどうなってるんだろーなーとか思ってた。

余談だけど、僕はこのおじさんと仲良くなって、ブルーシートハウスに招待されて、プラスチックのコップで
どう考えても不純物浮きまくりのお茶を、その東大卒のおっさんと、ガラガラのシャツを着たグラサンの完全にヤクザ崩れみたいな人3人で
お茶会をしたことがあるw





霊が見えるおっさんというのはまた別の公園であった人で。

僕の境遇を気の毒に思って励ましたくれた人だった。

まあ霊が見えるおっさんって紹介しちゃったからアレなんだけど。
まさにそのまんまで、霊が見える宣言してきたおっさんだった。


ちょうどあの頃、若い子が若い子を殺す悲惨な殺人事件があった頃で
その被害者の霊がおっさんのところにやってきたらしく
「実はあの事件の犯人はな?」とかよくわからないことを聞かされた記憶がある。


そして話してる最中におっさんが軽く口を滑らせて
「おっちゃんなんかー、ほら。ニコチン中毒で、アル中で、シャブ中やからや・・・」と、最後の1個だけシャレになんねーこと言ってた。

あながち霊を見たというのも、嘘をついているつもりはないのかもしれない。

ただこのおっさんは未来も見えるらしく、僕の大学合格を予知してくれました。
いやまあ結局この年落ちたんだけどさ(核爆)



僕はもともと差別意識とかそういうのは、ホントに薄い方で.
別に無職って立場だからこういう人たちを悪く見ないってわけではなかったとは思う。
仮にあのときに自分が普通に高校にいってても、この人たちを悪くとららえることは無かっただろう。


ただやっぱり、こういう人たちに妙な親近感をもたないわけではなかった。
それでいて、絶対的にこの人たちが持っていなくて、僕が持っている若さっていうものはつくづく大事なのだろうなーとか。
さらには自分たちが決して恵まれた立場にいるわけでもないのに
身勝手に学校を辞めた僕みたいな若者に対しえエールを送れるだけの人間的な余裕というか。
そういうものに魅力を感じたことも事実で。


もし自分がおっさんの側だったら、学校すら行けない情けないやつだなぁとか思っちゃうしなー。
なんにせよ、あの当時の僕を人間らしい扱いをしてくれたのは、警察の人じゃなくってホームレスの人だったんですよね。

もちろんこれは、警察の事務的な態度を批判するとかそういうのじゃなくってw
ただ単純にあの時思った感情を素直に書いただけです。

ぶっちゃけていうとホームレスの人たちが正しいとは思えないし。
公共物に対して私的独占を繰り広げる脱法者だとすら思う。
ただ好きか嫌いかでいえば、好きだし。
青い鳥フラッシュみたいに、自分のことは自分でやりくりして生きてるあの人たちのほうが立派だとすら思っている。





あれから何年も立って、実際大学生になれた今、たまに公園でぼさっと座ってても特に話しかけられることは無くなった。
あるといえばあるけど、話しかけるのは散歩に来てるジジババ見たいな人が多くて。
ホームレスのような人たちは僕に話しかけては来なくなった。


それが何故なのかはよくわからない。
ただの偶然なのかもしれないし。
普通に生きてたらなかなかホームレスの人と昼間の公園で話したりしないじゃないですか。
だからアレはアレで良い経験したなーとか思っちゃうんですよね。
もちろん普通に学校行ってた方が良い経験したんだろうけど(核爆)